ロシア 脱「アングロサクソン」探る近代化策 中国モデルは欧米牽制の手段
2010-01-27
ソ連崩壊後、欧米型近代化モデルに基づく体制移行で大きな代償を支払ったロシアでは、欧米型の処方箋(せん)は信頼を失っている。代替的な近代化モデルとして最も魅力的と考えられているのが「中国モデル」だ。しかし、こうした議論は両国の政治、経済、文化の違いを見過ごす傾向がある。実際、ロシアの指導者は自国を「共通の欧州文明」の一員と考えており「アングロサクソン・モデル」を相対化するため、便宜的に中国モデルを利用しているに過ぎない。
≪分析≫
超大国に台頭しつつある中国は、発展途上の多くの国にとって羨望(せんぼう)の対象だ。特に、経済成長と民主主義とを切り離している点が、権威主義体制にとって魅力的だ。権威主義体制は、主権を正当化し、近代化の非西洋的、非民主的な道を探し求めているからだ。世界金融危機で、いまでも不況に苦しむ欧米諸国とは対照的に、中国経済がいち早く成長軌道に戻ったことで、中国モデルはいっそう説得力を増している。
◆衝動の集合体
中国モデルは厳密に定義されたイデオロギーというよりも保守的衝動の集合体といえる。
(1)権威主義的近代化
中国モデルは、民主化なしに近代化は不可能だという欧米の前提に挑戦している。それどころか、中国の政策決定者らは、経済発展にとって強力な中央集権国家が不可欠だと主張する。
(2)内発的発展モデル
中国は、各国は国民的特性や文化を考慮して、独自の発展経路をとる必要があるという。中国では、国家主権保護の死活的な重要性が強調される。
(3)政治的現状維持
中国政府は、経済改革によって体制の安定や社会秩序が損なわれてはならないと考えている。中国では、共産党の指導的役割強化が最優先課題なのだ。
(4)漸進主義
変革は慎重に導入されねばならない。性急な行動は、改革を危険にさらすだけでなく、政治、経済、社会の混乱を引き起こす危険がある。
(5)国家優先
国家、つまり中国共産党だけが近代化を管理する資源と無私無欲さを持っているとされる。これは党が財政政策、金融政策に加えて、重化学工業、軍産複合体、宇宙、エネルギー、通信などの「戦略的部門」を支配することを意味する。
(6)国営企業優先
中国政府は、さまざまな経済活動の形態を認めているものの、国営企業が資源の最も大きな割り当てを受ける。最近でも、総額4兆元(約52兆9600億円)の景気対策で最も大きな恩恵を受けたのはナショナル・チャンピオン(自国の代表的な企業)たる国営大企業だ。
(7)社会志向の改革
近代化の成功は、広範な大衆の支持を維持することにかかっている。所得格差の削減、失業の緩和、インフレの抑制、環境と調和した持続的開発の保障は、国内総生産(GDP)の成長に劣らず重要だ。
◆価値観の違い
ロシアでも、中国の近代化モデルの長所について議論が高まっている。しかし、ロシアの政策決定者らは、中国モデルを採用するつもりはない。それにはさまざまな理由があるが、価値観の違いが最も大きい。ロシアは経済、文化面では欧州中心主義であり、戦略、安全保障では米国中心の世界観を持つことが、ロシアが中国モデルを採用するうえで大きな制約となる。
また、ロシアにおいて「国家管理」は誤解を招く呼び方だ。ロシア政府の優先課題は、商業利益を保護し、政府の権威に対する内外の挑戦に抵抗することだ。経済の「司令塔」を支配したいとの欲求は、イデオロギーではなく、自己利益に動機付けられている。
さらに、経済の規模や構造の違いも無視できない。中国のGDPはロシアの2倍あり、その差は拡大している。また、中国は第2次産業(GDPの約50%)、第3次産業(同40%)の比重が高いのに対して、ロシアではGDPに占めるエネルギーや1次産品輸出の割合が史上最高の水準となっている。
ロシア当局にとって、中国の近代化モデルの価値は象徴的、便宜的なものであり、欧米との関係で「てこ」として利用できるところにある。ロシアは、近代化に関する議論で欧米モデルが独占的地位を持つ点に挑戦したいと熱心だ。ロシアは、「法の支配」の自由主義的解釈、説明責任を持つ政府、開かれた市場といった欧米の規範の普遍性を覆そうとしている。
近代化の代替モデルの存在は、ロシアが独自の方法で世界経済に加わるための理論的な展望を与えてくれる。ロシア政府は、東洋と西洋の間で均衡を図り、主要20カ国・地域(G20)を中心とした新しい金融秩序の中で影響力拡大を熱望している。
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≪結論≫
ロシアは、中国の近代化から学ぶこと、ましてや採用することに関心はない。欧米との交流で苦汁をなめることが多いにもかかわらず、ロシアは拡大欧州の一員を自任している。ただし、ロシアは自由・民主・資本主義というアングロサクソン・モデルのくびきを逃れたいと考えている。こうしたロシアにとって、中国モデルは近代化のひな型ではなく、内外政策の道具に過ぎない。(オックスフォード・アナリティカ)