人獣共通感染症 パンデミック対策いかに? 早期発見と研究体制の拡充必要

 世界保健機関(WHO)は、新型インフルエンザ(H1N1型)による世界の死者が、今月1日までの集計で6000人を突破したと発表した。インフルエンザのように動物とヒトの間で感染する「人獣共通感染症(動物由来感染症)」や保健政策の専門家は、もはや人間の健康問題は動物の健康を抜きに考えられないと指摘している。感染症のパンデミック(世界的大流行)は、国の医療・保健制度だけでなく、市民の日常生活や経済活動にも大きな影響を及ぼす。

≪分析≫

20世紀後半に医学が大きく進歩したにもかかわらず、動物に由来し、人間に感染する新しい病気が現れ続けている。エイズ(HIV/AIDS)、新型肺炎(SARS)、西ナイル熱、強毒性の鳥インフルエンザ(H5N1型)のほか、「豚インフルエンザ」とも呼ばれる現在流行中の新型インフルエンザなどだ。

どうすれば、人獣共通感染症から人間の健康を守ることができるのか。考えられるのは、動物から病気が生まれるところで発見し、封じ込め、できることなら根絶することだ。

◆早期警報の情報網を

ヒトと動物に感染する病原体は、ウイルス、バクテリア、その他の原生動物、多細胞の無脊椎(せきつい)動物などだ。自分よりも大きな生命体に寄生し、自己複製の過程で感染症を引き起こす。直接、あるいは蚊などを媒介として拡散する。感染した生命体が免疫を発達させたり、新薬が開発されると病原体は変異して、これらの防衛手段から逃れようとする。

新しい病気は、主に動物の既存の病気が変異して種の壁を越えることで生まれる。過去40年間に、約40の新しい病気が生まれた。カメルーンのチンパンジーに起源を持つといわれるエイズウイルス(HIV)により、毎年約280万人が死亡している。

感染症の発生について、最前線のデータをリアルタイムで集める必要があることから、世界の公衆衛生で情報システムの重要性が高まるだろう。インターネットで公式、非公式の発病情報を集めるバイオキャスターやヘルスマップなどの仕組みは、早期警報の社会体制を強化するだろう。

インターネット検索最大手のグーグルは、インフルエンザの治療情報の検索数を数えることによって、米疾病対策センター(CDC)より2週間早く、季節性インフルエンザの流行を予測することができる。

早期の診断と介入により、生命を守り、感染を抑えることができる。特定の病原体の分子レベルの特徴を理解し、低コストの検査キットを開発するとともに、世界的な監視体制を整備する必要がある。また、感染症の発生が探知されたとき、あらかじめ決められた行動計画に従うことが求められる。

◆気候変動も一因

感染症を引き起こす病原体は自力では大きな距離を移動できないので、病気の拡散は蚊などの媒介生物や発病した生物の移動によってもたらされる。このなかで、人間が世界中を短時間で移動する能力が果たす役割は大きい。

経済のグローバル化、都市化、産業化などのマクロ要因も、人間の病気が広まる原動力だ。衛生環境が整わない中で発展途上国の都市化が進めば、新しい病原体が増殖する絶好の場を提供することになる。

社会的・経済的不平等、宗教の原理主義、再生不可能なエネルギーの獲得競争、自然環境の破壊はみな、政治的不安定、人口移動、難民を生み出す。洪水や地震など、自然災害も同様だ。

これらの要因は、食事が不十分で、基本的な衛生環境が欠如し、人々が過密に集まる状況をつくり出しやすい。病気への自然な抵抗力が弱まっているために、感染症は急速に蔓延(まんえん)することになる。

また、気候変動も一因だ。病気を媒介する蚊などの小昆虫の生息域も変化するからだ。地球温暖化に伴い、鳥やヒトの西ナイル熱や、ウシやヒツジのブルータング(青舌)病が最近、極地に向かって拡大している。

人間の健康を守る最良の策は動物の病気を管理することだが、世界的に、動物の研究のための資金は著しく不足している。ワクチン技術は向上しているものの、少ない利益幅、法的責任、医療訴訟の急増、発展途上国の病気を治療するための医薬品市場の不完全性などのために、対策の発見を民間の製薬会社にだけ任せることはできない。病原体の研究には、より積極的な政府の関与が急務といえる。



≪結論≫

病気を助長するさまざまな問題に対処するためには体系的なアプローチが必要とされる。これには、人間と動物双方の医療・保健当局の密接な関係、地球環境専門家の参加、効果的な国際協力、発展途上国に対する先進国の大規模な投資などが含まれる。しかし、疾病対策を実施するための政治的意思を見いだすことは困難だ。それは自然災害対策と同じように、まだ起きていないことに対処することになるからだ。

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